“近い存在であるはずのひとが、動物が、風景が、ふいに遠く感じることがある。” (本書あとがきより抜粋)
家族やネコと暮らしていて、まさにそう思う瞬間がある。大人になると、家族といえども「他人」であることには違いなく、その程よい「遠さ」をむしろ愛おしく思ったりする。
ネコなんて、常にそれである。物理的な距離は近くて、ごはんや添い寝の誘いは理解できても、彼らが何を感じているのかはわからないことの方が多い(それが神秘的で魅力なのだが)。
『あたらしい窓』は、写真家・木村和平が「近い存在であるはずのひと」や風景を撮りながら、そこに生じる距離を映し出した写真集。この「距離」は暗く悲しいものとしてではなく、“眩しい”ものとして映し出されている。
近い存在であるはずのひとが、動物が、風景が、ふいに遠く感じることがある。それは寂しさや不確かさ、そして触れがたさとなって、短い風のように目の前に現れる。いくら被写体とカメラの距離が近くても、ひとがこちらに笑いかけていても、遠いときはとことん遠い。間に窓があるみたいに、見えるのに触れない。写真はそれらを静かに、そして鮮明に提示してくれるものだが、理解につながるかは別の話だ。わからないことをわからないままにできるとき、私はとても落ち着いている。 これはなにも暗い話ではない。もちろん悲しくもあるけれど、親愛のなかにある距離を、どこか眩しく思う。 (中略)幼い頃の体験や、いまも進んでいる生活に私はおおきな関心と執着がある。前者は独自のアルバムであり、後者は他の誰でもなく、自ら選んで作っていくものだ。住む場所、食事、服装、そして関わる人々までも、自分で決めていい。知らない駅で降りてもいいし、猫と踊ったって構わない。数々の体験と選択が、誰とも似つかないひとを形成していく。それぞれにオリジナルのエピソードがあり、その手触りが宿っている服や映画、そして音楽に感銘を受けてきた。それらはごく個人的なものごとを出発点にしながら、受け取るひとが自分のことのように思えるしなやかさと、そこから未知の眺めへとひらいていく豊かさを併せ持っている。私はそれを、写真でやりたい。 (木村和平『あたらしい窓』あとがき より)
ちなみに、彼はヒマラヤンの「つぶて」、エキゾチックロングヘアの「さよ」と暮らしている。
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